ロマンチックな琴ヶ浜
山陰本線馬路駅から 肩を寄せ合うように寄り添う集落を抜けると
松の間々に渺々たる日本海を控えた 白砂の浜が目に飛び込んでくる。
この浜に踏み入ると 歩々の度に「クックックッ」と 瑶琴を奏でる
に似た琅然なる音が 足下から鳴り響びいてくる。それ故 いつしかこ
の浜を「琴ヶ浜」と 呼ぶようになった。 白砂青松で風光明媚な琴ヶ
浜は 古来よりその妙音を絶やすことなく 今日に至っている。
一時も休むことなく 寄せては返す波の動きにより洗われ続けている
白砂は 擦れ合いながら 次第に円くなり 淘汰され 粒の揃った木目
細かな砂に変わり 美しい音を発するようになった。
このような砂は「鳴り砂」と呼ばれ 特にここ馬路町の琴ヶ浜は 屈
指の鳴り砂の浜として 世に広く知れ渡っている。
一日の終わりを告げる夕陽 静かに寄せ引く波の音 飛び交う鴎のさ
えずり そのロマンに浸れるところ それが琴ヶ浜である。
仁摩サンドミュージアム
客員研究員 志波靖麿
渺々:ビョウビョウ=水のはてしなくけむるさま。また、はてしなくひろがるさま
瑶琴:ヨウキン=美しい音色を出す琴
琅然:ロウゼン=玉のように美しい音